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夢見るダイアモンド  9

            9

久しぶりに母親から電話が掛かってきた。
「近所でお土産に文旦を頂いたのだけれど、こんなに沢山食べきれないから取りに来て頂戴」と言う。
文旦は美沙も大好きだ。「絶対取りに行くから食べちゃわないでよ」と念押しする。

美沙の母は、個人病院の婦長でいつも忙しい。ちょっと前にはそれこそ総合病院の婦長まで勤め上げた人間だ。もう若くないから昔の様には働けない、と言いながら場所こそ違え、バリバリの現役で毎日忙しく立ち働いている。そんな母親からしたら、若い美沙が専業主婦に納まっているのがどうしても納得出来ないらしい。
「あちらじゃ子供、子供って言ってるらしいけど、出来ないものをそんなに急かしてどうしようってんだろうね」
「お前もたまには向こうのお母さんに、そんなにやいのやいのと言われたらストレスで却って出来るものも出来ません、くらい言ってやったらいいのに」などと時々とんでもない事を言ってくる。

母のこのきつい性格が義理の母である祖母に受け入れられたのは、父の世間に無頓着なところと、祖母の温厚な性格に拠る所が大きかったのであろう。母はとても優秀な看護婦ではあったけれど、あまり家庭を省みるタイプでは無かった。
祖母は美沙がまだ小学校低学年の頃にはホットケーキやドーナツを作ってくれたり、あや取りや折り紙を教えてくれたり、宿題を手伝ってくれたり、そして時々は帰宅した母と言い合いになることもあった。
そういう時はいつも祖母が穏やかな口調なのに対し、母はずけずけと随分愛想の無い受け答えをしている様に感じられた。母はお祖母ちゃんが嫌いなのかもしれない、子供心にもそう感じた。
by _kyo_kyo | 2011-04-27 17:55 | 小説 | Trackback
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