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掲載作品 其の一

2012年の冬に、地元で小さな賞を頂いた作品です。
過去に掲載した時のコメントもそのままになっていますが、
詩自体は改作して、全く趣の違う作品に生まれ変わりました。


「図書カード」

分厚い本を机の上に載せ

ぱらぱらとページをめくると

遠い記憶の底から

懐かしい中学の図書室の匂いがした


あなたの閉じたページを制服の私が開く

目をつぶり、息を整え、少しだけ緊張して

みんなに何度も読み継がれ

上がくるりとめくれ上がった本は

所々剥げて今にも分解しそうなのに

「ここにいます」

ページをめくる度に魔法の言葉を囁く


何の変哲も無い本を

ことさら特別に感じさせる図書カード

あなたの後に私が借りて

私の後にあなたが借りて

本の裏表紙に挟まれたカードには

言葉を交わした事も無い

二人の名前が記されていった


何度も繰り返す偶然はまるで必然の様で

少し照れた私は

わざと違う本に手を伸ばしていた

その日を境に裏表紙のカードに

あなたの名前を見出す事も無くなり

二人の図書カードにも

同じ題名の記される事は

無くなっていったのだった


あの頃、制服の私は

若さという微熱を伴いながら

軽い胸苦しさを覚えたまま

図書室でひとり、かくれんぼをしていた

本棚から本棚へとスカートを翻しながら

夕焼けに染まる図書室の片隅で

放課後のほんのひと時

数多の本にかこまれて

私の時間が無限に輝いていた



                       
by _kyo_kyo | 2012-11-25 15:59 | | Trackback
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