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夢見るダイヤモンド 15-2

気が付くと、もうどれだけ歩いていたのだろう。頬の涙もすっかり乾き、隆史への怒りも風船がしぼむ様に消えていた。切りっっぱなしの携帯の電源をオンにしたが掛けるきっかけがつかめない。それでも、もうそろそろ引き返そうかと立ち止まり振り返った瞬間だった。

「うわっ」叫び声と同時に後ろから走ってきた自転車と正面からぶつかってしまった。
衝突の勢いでお互いはじけ飛ぶ様に倒れる。『痛っ・・・!』涙が出そうなほど足と腕が痛くて、一瞬あまりの痛みに声も出ず、立ち上がる事も出来ない。
それでも何とか顔を上げてぶつかった相手を確認すると慌てて相手に駆け寄って行った。
「大丈夫」相手が子供だったので自分の痛みなど吹っ飛んでしまったのだ。

「ごめんなさい」おかっぱ髪の少女は小学5、6年生位だろうか、蹲った膝小僧から血が出て痛みに顔を歪めながら謝っている。
「ごめんはこっちだから。ぼんやりしてて本当にごめん、足怪我してるね、他に痛いところは無い、立てそう、家はこの近く?」
美沙の問いにも首を横に振り、大丈夫だからとびっこを引きながら歩き出そうとする。「こんな時間に帰宅途中だったの」そう聞いてから自転車カゴの算盤塾のバックに気が付いた。
「塾から帰るところだったのね」頷く少女に「ちょっと待ってて、家まで送るわ。こんな時間だし、怪我させてこっちが心配だからね」

そう言いながら躊躇うこと無く隆史の携帯に掛けると、最初少し不機嫌そうに出た隆史だったが、事情を説明した途端、大至急で車で駆けつけて来てくれた。
二人の怪我の状況をざっと一瞥するや「自転車はそのまま鍵を掛けて道の端に寄せておけば良いから、二人とも早く乗って」
そう言うと美沙にカゴの中のカバンを手渡し、少女に自宅まで送って行くから道案内を頼むと告げた。
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by _kyo_kyo | 2011-11-20 15:57 | 小説 | Comments(0)

発車

電車は発車してしまった

背負った荷物が揺れながら肩に食い込む

あの電車は行ってしまった


階段を駆け上がる足が縺れ

上手く走れず 肩で息をする

電車は待ってはくれなかった

今度も 間に合わなかった


あの電車に乗れたなら

間に合っていたのなら

そう思いながら 

何度目の電車を見送ったのだろう


一生懸命走っているのに

少しでも早くと気ばかりが焦って

何故にあと一歩届かない

この不器用な足は 

何の為に在る


答えはあの電車が知っている

そんな気がして走っている

背中でリュックがクツクツ揺れる

揺れながら笑っている

背中で不器用な足を見下ろしては笑っている


どうぞそんな風に笑わないで

そんなに笑われたらこの足は

前へ進むことが出来なくなってしまう

哄笑なんか平気だとは言わないけれど

それよりもっと強く前へ踏み出したい


だから今度こそ

あの電車に乗るんだ

発車間際のプラットホームで

あの電車に飛び乗って

次の駅を目指すんだ

あの電車に乗って

何処までも行くんだ
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by _kyo_kyo | 2011-11-08 23:30 | | Comments(8)

散歩する犬

夢をみていた

目を覚ました瞬間

泡のように消える儚い夢なのに

いつまでも胸の奥が熱かった

これは懐かしさなの

それとも切なさなの

割り切れない気持ちを引きずったまま

新しい一日を迎える

カーテンを引いたような薄闇の朝が

それでもお早うと言っている


冷気の中 主人の後をついて足を引きずる

黄ばんだ毛色の大きな犬とすれ違う

その瞳は穏やかな光を湛えているけれど

竹箒の様に不細工で太い尻尾は

折れた耳と同じ様に垂れ

昔のようにピンと元気よく振られることも無く

大きな体を揺らす様に主人の後をゆっくりと歩んでいく


ねえ そういう事なんでしょう

見知らぬ瞳に向かって問いかけるが

彼は何も答えず

軽く足を引きずったまま立ち去って行くけれど

私は遠ざかるその背中に尚も問いかける

きっとそういうことなんだね


そして小さな優しい想いを君から貰うんだ

またひとつこうやって大切なものを

今日も一日貰っては過ごして行くんだ
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by _kyo_kyo | 2011-11-04 02:43 | | Comments(1)