<   2013年 03月 ( 3 )   > この月の画像一覧

魂の喪失

何もかも失くしたような

そんな空間に放り込まれて

どれだけ時を渡ったことだろう

季節は鋭い白から匂い立つ桃に変わり

やがて緑に煌めき

ひらひらと赤く燃え

また白く光っていた


季節の移り変わりも心には届かず

ただ泥のように眠り続けた

漆黒の中に塗り込められたまま

膝小僧が話し相手となり

醜さを憎みながら

醜さと背中合わせに過ごした


垣間見るのは

闇の中に光る月で

闇の中に眠り続ける花で

静かに眠り続ける夜の住人だった


失った世界をザルで掬うように

動けない体でもがきながら

見えない目で追い続けていた


涙は両の目から訳も無く流れ続け

心は徐々に崩れていった

あの心は

何故崩れた

こんなにも愛した世界を失って

心は何処へもぎ取られてしまった

失われた魂は何処へ彷徨う


もう少しと溜息を堪えながら

消えそうな魂を捉まえようと

何度も 何度も

闇に向かっては手を延ばし続けた
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by _kyo_kyo | 2013-03-24 05:06 | | Comments(2)

星屑に包まれて

瞳の奥の奥

寄せては返す思い

銀河に揺られては

天の川を旅する

いつか見た幼い

思い出の中に

閉じ込められたままの

流星が流れる

真っ暗な闇夜も

照らすランプは星屑

夜に眠る花達の

夢の中まで揺られて

帰っておいでよと

何処からか声が聞こえる

懐かしい星達の

歌声が響いている
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by _kyo_kyo | 2013-03-19 02:05 | 呟き | Comments(0)

紫の瞳の千砂

中学生の僕には9つ年上の姉がいる。
大学生になって本格的にバンド活動を始めて、
ある時、千砂の目は紫になった。

両親は趣味が悪いと言って止めさせたがったが、
いつもは我を張らない千砂がこれだけは頑として譲らなかった。
カラーコンタクトと分かってはいても、
紫の瞳はちょっとカッコイイと憧れた。

色白で整った顔立ちの千砂は素顔でもとても目立つ。
時々千砂の女友達が遊びに来て、
僕を見て「ちっとも似ていないね」と笑う。
全く失礼な連中だ。
僕達が似ていようが無かろうが何の関係もない。
そもそも千砂と僕が似ている訳がないのだ。
だって千砂とは血が繋がっていないのだから。

僕が小学校に入学する前の年に母が再婚した。
不思議と再婚した時のことは記憶に無く、
覚えているのは小学校に入学して、
登校の集合場所まで連れて行ってくれた時の千砂の手だ。
白く細い指で僕の手をしっかり握ってくれて、
照れ臭かったけれど嬉しかった。

幸か不幸か、元々父の記憶の無かった僕は、
新しい父や姉を抵抗無く受け入れられたようだ。
幼い僕は、いつも明るくて楽しい背の高い父や、
綺麗で優しい姉の出来たことが、ただ嬉しかった。

そんな姉も最近では少しずつ自分だけの世界を作り、
僕には不思議な世界の人間の様に感じられることが多くなった。
「まあちゃん」千砂はいつも僕の事をそう呼ぶ。
「この歌どう思う」フォークギター片手にいつも宿題の邪魔をしに来ては、
気怠い旋律をつま弾きながらギターの音色と絡み合うように歌う。
歌い終わると満足するのか、こちらが何も言わないうちにまた出て行く。
そんな時、千砂はまたあちら側の世界に行っているんだと思う。

僕は千砂の歌声が好きだ。
でもそんな事、本人の前では絶対口に出来ない。
そういうのは家族でも口にしたらとても恥ずかしいと思う。
けれど父は「千砂の歌声は綺麗だなあ」と何度も言う。
母も「千砂ちゃんの歌声は本当に素敵ねえ」と言う。
だから千砂は、益々見知らぬ世界の住人になって行くような気がする。

土曜に千砂が「ちょっと今夜つきあってよ」と言った。
「いったい何」と聞くと、行先は両親には内緒だと言う。
バンドがライブハウスに出ることになったので、そこで歌うのだ。

無論中学生の出入り出来るような場所じゃないだろう。
ろくに覚えてもいない校則手帳を頭の中でぱらぱらとめくってみる。
きっと学校に見つかったら大変だ。
補導、停学、の文字が頭に浮かび、
僕はわくわくしながらその場で「行く」と即答した。

僕は今までこんなにわくわくしたことは無かったんじゃないだろうか。
サッカーの試合に勝っても、テストで100点取っても、
こんなにはわくわくしなかったと思う。
千砂は準備があるから早めに家を出ると言う。
時間になったらメールするから、外で落ち合って一緒に入れば問題はないと言う。

本当に問題ないだろうか。
僕はメールを待つ間、密かに変装の準備をした。
マスクとニット帽とマフラー、それに姉の部屋で見つけたサングラス。
それらをまとめて台所にあった紙袋に入れると水道の蛇口から水を飲んだ。
母に聞かれたらどうしようと思ったが、
友達の家に行くと言ってあるので気にしていないみたいだ。
ほっとしたけれど、ちょっとがっかりしている自分もいた。

ライブハウスの会場は、
大学生や高校生くらいの若い子で少し込み合っていた。
僕もその中に埋もれたらあまり目立たないかも知れない。
指定された場所に立っていたら、同じ様な格好の千砂がいた。

一瞬、お互い誰か分からなくて、次の瞬間吹き出した。
笑いながら大きな声で「ダサい」と言われた。
千砂はマフラーじゃなくてスカーフだが、
僕と大して変わらないと思う。
「そっちのがずっとダサい」と言い返したら、
「これはステージ衣装なの」と睨まれた。

「今夜は4組出るから最後までいないとダメだからね」と念押しされたが、
結局最後に出るという事なんだろう。
小さなライブ会場で、みんな立ったままオレンジジュースやビールを飲んでいた。
僕はカウンター横の柱にもたれたまま、
興味の無い歌を聴きながらぼんやりとミネラルウォーターを飲んだ。

女の子達は時々黄色い声で誰かの名前を叫んだ。
みんな笑ったり、喋ったり、叫んだりしていた。
僕も少しみんなの熱気にあてられて、だんだん頭がぼうっとして来た。

もしお酒を飲むとしたらこんな感じだろうか。
少し気怠くて心地良い。
さっきまで暇を持て余していたのが嘘の様に、
楽器の音がビンビンと全身に響いて、
僕は尖がった三角定規になって行く。
音はお腹にまでズンズンと響き渡るが
お腹を叩かれるのとは違う気持ち良さがある。

突然賑やかしかった照明が消え、
スッポッとライトの真ん中に千砂の姿が浮かんだ。
バンドと聞いていたのに、そこには千砂とギターの男性しかいない。
しかも二人とも椅子に腰かけている。
ギターの人は、千砂が僕の部屋で弾いていた、
気怠い様な不思議な曲をもっとずっとゆっくり弾いた。

そして千砂は語り始めた。

花の色や、風の匂い
銀色に光る鱗雲や
薔薇色に煙る夕日
無限に寄せては返す波の音や
カモメの飛び交う空の広さ
畑の土の温もりや
そこに生きる虫達の存在
やがては散るように消えて行く命の儚さ

ギターのリズムが揺れるように、
千砂の魂も揺れているようだった。

会場がすっかりしんとなると、
次の瞬間千砂とギタリストが立ち上がり、
バンドメンバーが入って来てスタンバイする。
照明が変わり、千砂の長い髪はライトを受け、
ぱあっと燃えるようなオレンジに染まった。
僕はその時、千砂の唇に真っ赤なルージュの引かれているのに気付いた。
千砂は不思議の世界の扉を開いていたのだ。

独白から一転して、
エレキとベースにドラムの激しいサウンドが巻き起こる。
千砂はスカーフをなびかせながら、
音の渦の中、疲れを知らぬ紫の瞳の妖精のように歌い叫び舞った。

小さな会場を、所狭しと歌い続けるその姿は眩しくて、
ふわふわした髪をライトで七色に染めながら、
千砂は時には声を絞り出すように体中で歌い叫んだ。

それは僕の知る千砂とはまるっきり別人だった。
いつの間にか皆が「ちさ」と叫んでいた。
僕も叫んだ。
千砂がこっちを見て笑った様な気がした。
人波に押されて、少しミネラルウォーターが毀れてしまった。

帰り道、千砂の隣を歩きながら、
僕は静かに興奮していた。
千砂からは汗に交じって良い匂いがしていた。

「まあちゃん、今夜どうだった」
聞かれて僕は「まあ良いんじゃない」と答えた。
本当は最高だったと言いたいのに、照れが邪魔をした。
隣を歩いていても、もう小学1年生の頃のように手をつなぐ事も無い。

「プロになるの」尋ねると千砂は黙ったままだった。
何かまずい事を言ったのかと恐る恐る千砂の方を見ると、
いきなり振り向いて「気持ちはプロのつもりだよ」と照れ臭そうに笑った。

僕を真っ直ぐ見つめる紫の瞳が、街灯の明かりの中ですみれ色に煌めいた。
化粧を落とし口紅もしていないのに、その瞳に吸い込まれそうだった。

「お母さん達にはまだ内緒だけど、そのうち一人暮らしをしようと思うんだ」
そっか、と相槌を打ちながら、
もう誰も千砂をこちら側に引き止めてはおけないんだと思うと少し寂しかった。
「そうなったらまあちゃん、きっと遊びにおいでね」
そんな僕の気持ちを読み取ったかのように、そう千砂は言葉を添えた。

街灯の続く道は千砂をそのまま不思議の世界へと導く様で、
僕はただ黙って千砂の横を歩きながら、
そう遠くない未来のことを考えていた。
僕の知らない不思議の国の住人の紫の瞳の千砂。

「成功するといいね」僕が言うと、
「うん、夢は叶える為にあるんだ」
そう言いながら僕の持って来た紙袋を取り上げてぶんぶん振り回す。
「挫けそうになったらそう思うことにしようって決めた」
きっと成功するよ、僕は心の中で太鼓判を押した。

ひょいと紙袋からニット帽を取り出すと、
「今夜は有難う」と言いながら、
思いっきり僕の目までニット帽を被せると、
「駅まで競争!」と言うなり走り出した。

僕はあわてて帽子を目蓋までたくし上げると、
「ずるいよ」と叫ぶと、
千砂の背中を追いかけて走り始めた。



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by _kyo_kyo | 2013-03-11 00:52 | 小説 | Comments(6)