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夢見るダイアモンド  10

              10

「へええ、これって文旦だね。珍しいなあ」
美沙が「はいっ」と差し出した手提げいっぱいの文旦を見て柳瀬は目を丸くした。
「とても大きいでしょ、すごく重かったんだからね」
だからここからは柳瀬さんが持ってね、と美沙は柳瀬に押し付けて歩き出した。
「こんなの良く売っていたね。高かったんじゃない?」
「ネタをばらすと有難みが失せちゃうけど、実を言うと母が近所でお土産に貰ったの。
貰いに行ったら山の様に置いてあったから、それならばと柳瀬さんにもお裾分け」
なあんだ、と言いながら文旦のいっぱい入った袋を軽々と持ち上げる柳瀬を見ていると、
一緒に仕事をしていたのがつい先日の事の様に思われる。

これから柳瀬の案内で、彼の叔父の店へ訪ねて行く所だった。
手ぶらでも何だし、かといって菓子折りではちょっと仰々しいし、と悩んでいた所に丁度母の文旦が舞い込んできた。
自分の好物が他の人の味覚に合うか分らないが、実際この文旦を食べたら他の柑橘類では物足りなくなってしまう程の美味しさだった。
色々種類があるらしいが昨日食べたそれは、美沙が知っている極上の味と同じだった。

「本当言うとね」「うん」「これって柳瀬さんには勿体無いって思っちゃった」
「うは、それはないんじゃない」美沙の言葉に噴き出す柳瀬に「だってとっても上品な味なんだからね。まあ、柳瀬さんも食べて良いけれど、ちゃんと叔父さんにお渡ししてよね」と釘を刺す。
「はいはい、僕は佐伯さんみたいに食い意地が張っていないから大丈夫だよ」
店はここから5分と掛からないからゆっくり歩きながら行こうと道の先を示す。
by _kyo_kyo | 2011-05-04 08:16 | 小説 | Trackback
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