「王問うて曰く、
『尊者よ、何人でも、死後また生まれ返りますか』
『ある者は生まれ返りますが、ある者は生まれ返りませぬ』
『それはどういう人々ですか』
『罪障あるものは生まれ返り、罪障無く清浄なるものは生まれ返りませぬ』
『尊者は生まれ返りなさいますか
『もし私が死するとき、私の心の中に、生に執着して死すれば、生まれ返りましょうが、
然らざれば生まれ返りませぬ』
『善哉(なるほど)、尊者よ』」
「暁の寺」新潮社文庫P144より
この世にもし輪廻の法則があったとして
人が何度転生を繰り返すとしても
きっと私は甦ることは無いだろう
それは勿論私が清浄だからでは無く
散りゆく様を美しいとは思わないけれど
生きることは一度限りで良いと
心のどこかが諦めの思いに浸されているから
言葉にすると何処か薄ら寒く嘘臭く感じられるけれど
ひたひたと打ち寄せる生の波が魂を洗い続けて行くのを感じる
それは辛い事でもなく、かといって歓喜を呼び覚ますことでもなく
岩が波に洗われて少しずつ削られて行くように
私もまた削られながら変容していく己自身を知る
そういう自分を感じるのはきっと一度きりで良い
風に震える木の葉が
千切れ飛んだらもう二度と舞い戻ることが無いのと同じように
人としての生も二度と無くても良いのかも知れない
それをただ哀しいと思う自分が確かにいて
人としての寂しさに負けそうな時は確かにあるのだけれども
その感情に慣れることは無いままに
そのままの自分を受け入れている