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2011年 05月 07日 ( 1 )

夢見るダイアモンド 10-2

            ☆  ☆  ☆

「駅が近いのは便利よね」
「でも街の中心部からは結構外れているから、店としてはマイナスなんだよなあ」隣で柳瀬がぼやく。
「どうして叔父さんはそんな場所に店を構える事のしたの。叔父さんほど名の売れた人なら、いくらでも好きな場所に出店できたでしょう」

「叔父の事どこかで聞いたんだ?」
眉毛を上げ訝しがる柳瀬に「まあね」とあいまいに返事を濁す。
「どうして叔父がこんな場所に店を構えているのか、隠す様な事でもないし佐伯さんになら話しちゃおうかな」
柳瀬の思わせぶりな言葉に、思わず美沙の耳は象の耳になってしまう。

「随分昔の話なんだけれど、叔父には結婚を約束していた女性がいてね」歩きながら柳瀬が話し始める。
「当時かなりの大恋愛だったらしいんだけれど、その彼女が結婚式の数日前に何の前触れも無く失踪してしまったんだ」柳瀬の歩調に合わせて美沙も歩みを揃える。
「叔父は無論、先方も随分人を使ってあちこち探したらしいけれど何の手がかりも見つからなくて、それ以来誰とも結婚せず、当時は民家だった今の場所を一度は出たものの、後年また戻って店を構え、それ以来あそこから動こうとはしなかったんだよ」

「そんな」思わず言葉を失くす美沙に
「変な話だよね。それこそ40年も昔の話だよ」
「他に好きな男性でも出来て駆け落ちでもしたんじゃないかな。よくある話さ。若しくは何らかの事件に巻き込まれたのかも知れない。当時は色々と根も葉もない噂ばかりが飛びかい、本当の事など何も分らないまま歳月ばかりが流れて、事実は今も深い深い闇の中さ」美沙は聞き終わると重苦しい気持のまま、深いため息をついた。
「それなのに叔父さんはここにいるの。もしかして今でもその彼女がどこかで生きていて、また戻って来るかも知れないと思ってでもいるの」

柳瀬は少し困ったような表情で「さあどうかなあ、それは僕にも分らない。叔父の心の中までは覗けないからね」と言いながらじっと美沙を見た。「佐伯さんだったらどう思う」
「そんな恋愛だったら生きて成就させたいけれど、一人の男性にそんな風にずっと想われ続けるのって、女からしたら最高にロマンチックかも」呟く美沙に
「そうかな、僕だったら絶対に嫌だな。相手にずっと思い続けられていたら、安心しておちおち死んでもいられないし、あの世に行ってもゆっくり恋人も作れやしない」
柳瀬のロマンのかけらも無い発言に、二人は顔を見合わせて爆笑した。
「あーあ、叔父さんに悪いんだ!」「そういう佐伯さんのがよっぽど笑ってるよね」
「私達って、本当に叔父さんみたいなロマンチストからは程遠いね」
by _kyo_kyo | 2011-05-07 12:56 | 小説 | Comments(6)