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2011年 05月 11日 ( 1 )

夢見るダイアモンド 12

             12

「先ずはこれを見て頂きましょうか。ダイヤの原石です」
少し離れた台の上にことりと置かれた石を見て美沙は戸惑った。
手のひらに乗る位のごつごつした黒っぽい石。「えっと、この石がダイヤモンドなんですか」
穏やかな笑みが店主の顔に広がる。
「これは標本です。こんなに大きなダイヤだったら大変なことになるでしょうね。この石はキンバライト原石と言い、その先にほんの僅かに光っている部分がダイヤなんです」
「この米粒みたいなのが」思わず口にして、しまった、と顔を上げると、向こうで弘喜が笑いをかみ殺しているのが目に入る。
「そう、この米粒みたいなものが原石です」

「どの宝石もみんなロマンチックですが、ダイヤモンドには特に犯罪と陰謀の匂いがぷんぷんしますよね」美沙が言うと、
今度は弘喜も腹を抱えて笑っている。「そりゃ昔の映画の観過ぎだろう」
「ダイヤモンドは永遠に」
ぼそっと叔父が呟き、それが007の映画の題名だと気が付くまでに一瞬間があった為「世代の差を感じるなあ」と恥ずかしそうに頭を掻く。
「私も観ました。父が大ファンだったし。007って何人か代替わりしているけど、初代007が如何にもスパイっていう感じで一番好きです」
「僕も賛成。初代を演じたショーンコネリーは如何にも男のロマンを感じさせる俳優だね。007は彼以外には考えられない」弘喜が話に割り込んで来た。
「彼の後も随分と良い役者が続いているんだがね。やはりあれ程セクシーでありながらダンディーという相反する魅力を醸し出せる役者は中々いないからね。良い意味で彼の演技が余りにも強烈過ぎたね」
叔父が原石を戸棚に戻しながら感慨深そうに言う。

「正に彼は役者の中のダイヤモンドだね。一握りの選ばれた人間にしかないオーラがある。それを生かすも殺すも監督の腕次第と考えると、素材を生かすという意味では監督の仕事はかなりおこがましいけれど私の仕事とも共通するものがあるかな」
「叔父さん、昔はじっと宝石を眺めながら長いこと考え込んでいたもんね。作業中は絶対話しかけられない雰囲気で、かと言って見てる分には何時間いても決して邪険にされることも無かったな」
そんなことあったかな、と笑いながら「じっと宝石に集中しているとね、他のものは一切目に入らなくなる。この石は何に生りたいんだろう、どんな姿に生まれ変わったら一番映えるだろうと、そればかりを考えている。生みの苦しみと喜びがせめぎ合っている世界では、弘喜なんぞいてもいなくても同じ事さ」と笑い飛ばした。
by _kyo_kyo | 2011-05-11 22:24 | 小説 | Comments(4)